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どんな家に住むかというのは、どんな空気の中で暮らすかということ

少し早めに仕事をリタイヤし、趣味のスキューバダイビングで世界中の海に潜ったというS様。60歳を迎えた頃、富士見高原にセカンドハウスを建てました。ご自身にとって3回目の家づくりとなった山荘には、S様の「住まい」に対する深い造形と「暮らし」に対する哲学が凝縮されています。

※凡例

お施主様への質問

  お施主様のお話

聞き手のコメント・感想・注釈


八ヶ岳に別荘を建てたきっかけについてお聞かせ下さい。

57歳で仕事をリタイアしたんです。仕事はもうやり尽くしたなぁと思って。これからは、いろいろな趣味を楽しむ新しい人生を始めたいと思ったんです。まず最初にスキューバダイビングにのめり込みました。フィリピンからガラパゴスまで、60歳までの3年間で世界中の海に潜りました。このとき、カメラも覚えて。潜っては、水中の幻想的で美しい世界を写真に収めました。

豪快に第二の人生を送り始めたS様。水中写真では、写真集も出したほどです。

60歳を過ぎると、スキューバダイビングで潜る前に誓約書を書かされるんです。「危険なことが起きても、責任を問いません」と約束しなきゃならないわけです。それに歳をとると段々と、世界中を飛び回るのも骨が折れるようになる。70歳くらいになると、遠出するのも負担になるだろうと思いました。スキューバダイビングは存分に楽しみました。それで次は、どこかに別荘を建てて一箇所滞在型の趣味にしようと決めました。また、別荘を建てれば、第二の趣味のピアノ練習にも使えると考えました。別荘を建ててから少しずつ自分の家にしていくのに、10年くらいはかかる。70歳になるころに、その家とその場所での暮らしが完成する。その過程を楽しみたいと思いました。

八ヶ岳を選んだポイントについてお伺いしました。

軽井沢も考えたんですが、最近少し蒸し暑くなったと聞きました。八ヶ岳の方がまだ湿度が低くて過ごしやすいかなと。自宅のある杉並区からのアクセスが良いことも理由のひとつです。それでこのあたりの、いろいろな土地を見て回りました。
この土地は敷地の端なんですが、奥は保安林なんです。つまり、この場所の景観はずっと変わらない。土地が斜面になっているので、当時買う人が居なかったそうですが、傾斜を活かして建てればむしろ素晴らしい眺めが楽しめると思いました。

保安林が一面に見渡せる大開口のリビング

この土地を前提として、2〜3社にプランを相談したそうです。オルケアに決めて頂いた理由をお伺いしました。

諸角さんの提案が最も技術的な裏付けがあり、充実していました。明確に、優れていた。オルケアさんが掲げる「オールケアする会社」という理念にも共感しました。その場所で何十年と暮らすわけですから、長いお付き合いになります。地場の建築会社として責任を持つために、「目の届く範囲で」というお話も聞きました。技術的な面と、建築に対する考え方や理念、総合的に見てオルケアさんに決めました。
実際に建築をお願いしてからは、本当によく相談に乗って下さいました。質問をすれば、必ず丁寧に返事をしてくれる。私からの質問には、諸角さんも伊藤さんも大変ご苦労されたと思います。

3度の家づくりを経験したS様。建築については技術的にも深い造形をお持ちです。今回のインタビューでは、「建築性能」についても幅広くお話を伺いました。

建築を計画している方の参考に、これまで建てたご自宅についてお話をお聞かせください。

銀行マンとして海外での生活が長かったS様は、日本と海外の住宅の違いから、お話してくださいました。

ボストンやニューヨークで9年ほど暮らしていました。あちらはとにかく寒いから、家は「高気密・高断熱」であることが当たり前なんです。とにかく隙間を作らない。天井にダクトを入れて、暖めた空気を巡回して建物全体の気温を一定に保つような仕組みです。だから、外がどんなに寒くても、家の中は大体25度から27度くらいに保たれる。
日本に帰ってきて、1998年に最初の家を建てることになりました。日本では、柱と梁で造る「しなやかさ」を持った家づくり、つまり在来工法があります。隙間をうまく使って、外気と調和するような家です。これはこれで素晴らしい工法なのですが、海外での生活が長かった僕には気密性が重要でした。それで、当時R2000と言われていた気密性を高めたツーバーフォー工法の住宅を採用しました。ツーバイフォーは欧米、主にアメリカの住宅工法で、一連の規格の壁材を使って家を建てる工法です。

高い気密性が快適な空間を実現するためには、換気や空調性能も確保する必要があります。

当時としてはまだ珍しい、「24時間換気、空調」の機能を入れました。ダイキン工業の製品です。この製品は、温度だけではなく湿度も管理できる唯一の製品でした。家の中は、おおよそ気温25度、湿度40%くらいに調整されます。

10年ほど暮らしたあと、引越しに伴い2つ目の建築を建てることになります。

どうせ建てるのなら、最初の家よりももっと性能の高い家にしたいと思い、「高気密・高断熱」の住宅で実績のある高崎のビルダーにお願いしました。大工さんには群馬県の高崎から来てもらいました。

S様の2軒目の家は、住宅の気密性能や耐震性能が重要視されるようになった頃で、注目されました。先進的な取り組みをしている住宅として、東京大学の建築学の先生や、ハウスメーカの方が見学に来るほどで、「10年先の家」「東京第一号のパッシブハウス」と呼ばれました。

窓ガラスは、2重構造の「ペアガラス」が一般的になった頃でしたが、当時最初の国産3重のガラスを採用しました。壁材も、当時最も断熱性能の高いものを使いました。断熱性が高い、というとなんだか息苦しく感じるかもしれませんが、「高断熱の家」というのは冬暖かいのはもちろん、夏は涼しいのです。魔法瓶のように、外がどんなに蒸し暑くても中の氷は溶けない。中の空気を一定に保つのが、断熱性能です。

S様の住宅性能に対するこだわりが、次の言葉に凝縮されていました。

冬は、寒くて乾燥します。夏は暑くて湿気が多い。家の中ではこれを、冬は暖かくしっとりとした空気、夏は涼しくさらっと快適な空気の中で過ごしたい。それを実現するのが、気密性能・断熱性能・空調性能です。どんな家に住むかというのは、どんな空気の中で暮らすかということです。快適な空気の中で暮らすために、住宅の性能には徹底的にこだわりたいと思いました。

高い性能を実現するためには、大工さんがとても重要だとおっしゃいます。

いくら設計が良くても、良い材料を使っても、最後にそれを「おさめる」のは大工さんです。経験と高い技術力がなければ、気密性が損なわれてしまいます。建築が始まると現場に何度も足を運びますが、現場を見て話をすれば、良い大工さんというのはすぐに分かります。

とても気になるところです。お話を続けてもらいました。

話しかければ、必ず答えてくれる大工さん。質問をすれば、技術的なことにも必ず何かしらの返答をくれる大工さんは、経験も豊富で現場ならではの視点や工夫の仕方を知っている方だと分かります。また、現場を見れば、整理整頓がきちんとされていて、道具がとても丁寧に扱われている。こういう部分は、顕著に現れる。オルケアさんも、抱えている大工さん・職人さんがとても素晴らしい。良い職人さんを抱えられる理由は、諸角さん伊藤さんの人柄であり、オルケアさんの社風や実績だと思います。良い建築会社でないと、良い職人さんは集まらないですから。現場を見ると、いろいろなことが分かるんですよ。

3棟も家を建てているS様からそう言って頂けると、大変光栄です。

あとは「土地を読む」という作業も大事です。季節ごとにその場所に来て、できれば1日中観察したい。諸角さんには、日を跨いで実際に1日、この土地に立ってもらったこともあります。この季節は、どこから陽が登ってどこに沈むのか。建築全体をどういう方向に向けて、どこを開口部にすれば、陽の光を適切に屋内に取り込めるか。光や風、家の向き、これらは住宅性能に直結する要素でもあります。

南西の保安林に向かう傾斜を活かし、設計。

「土地を読む」のも、オルケアの得意分野です。

先ほどお話した「保安林」もそうですが、周りの環境について実際の生活を想定して確認すると良いと思います。ここは管理事務所からすぐ近くの区画なので、雪が降ったら除雪車が早く入ります。敷地を出てすぐの温泉には歩いて行けます。奥の方だったら、距離的にちょっと歩けません。

土地探しから家づくり、そして暮らしのデザインに納得が行くまでこだわったからこそ、S様の八ヶ岳での暮らしはとても充実しています。続いて、八ヶ岳の山荘についてや、暮らしの楽しみについてお話を聞かせてもらいました。

現在のお住まいについて、気に入っている部分を教えてください。

建築性能についてはもちろん、しっかりやって頂いてとても満足しています。ここは標高1,200mで、夏はとても涼しく湿度も低いです。春から秋までは計画換気(壁取付の換気装置で24時間換気すること)だけで、室内の温度・湿度はちょうどよく保たれます。冬場は、不在時でも水道管が凍らないように夜間だけ温度調整をしています。あ、一箇所だけ、室内でも寒い場所があるんです。

そう言って、見せてくれたのは、キッチンから玄関脇へと続く場所に設けられた、食料庫貯蔵庫でした。

冬場、人間にとって快適な空気でも、ワインや食糧にとっては暑過ぎるんですよね。だからみんな、比較的寒い玄関に置いたりするんですが、気密性能が高いと玄関でも暑過ぎる。何より玄関がごちゃごちゃすると見栄えがよくない。それで、玄関脇に断熱材によって仕切られた食料庫を作ってもらったんです。家の中でもこの場所だけは常に十分に寒いんです。
間取りや、空間の区切り方も考えましたね。いろいろなご提案を頂きながら。開口部を大きく取って、林がきれいに見えるように、視界を遮らない工夫をして。空間全体をなるべく広々と使えるようにと、部屋と部屋の間に窓を設けたり、必要な時だけ部屋を分けられるようにもしました。

リビングと寝室側を繋ぐピクチャウィンドウ。寝室は、来客時に2部屋に仕切り動線を分けることもできる。

そして何より目を引くのが、リビングの奥の部屋にあるグランドピアノです。

八ヶ岳の日々の暮らしの中で、楽しみにしていることを教えてください。

一番はピアノです。リタイアしてからはじめて、ずっと続けている趣味なんです。少しずつ練習して段々と上達していくのが面白くて。この家を建てる前から、ピアノ室を作ろうと決めていました。趣味を楽しむための家ですからね。

長野県は、音楽家が多いんですよと、とても楽しそうに続けて下さいました。

住んでみてからわかったことですが、八ヶ岳に自宅や練習場を持っている音楽家の方や、音楽が趣味の方が多いんです。湿度が低いから、楽器が管理しやすいのかなと思っていますけど。こちらで、ピアノが趣味の方と知り合いになって、SNSでコミュニティを作ったり、たまにここでピアノ練習会をやっています。

グランドピアノの正面には、青々とした美しい林が見えます。

ピアノを弾きながら眺める景色が最高なんですよ。夏は緑が生い茂ります。冬になると落葉して、木々の合間から甲斐駒や南アルプスが見えるんです。林の中には小川が通っていて、鹿の通り道になっている。冬は見通しが良いので、鹿の姿をよく見かけます。

ピアノ室(冬季に撮影)

昨年の春には、この場所でサロンコンサートを開催しました。プロのピアニストを招いて、弾いてもらいました。

南側の森は、本当に静かで、ピアノの正面の窓を開けて演奏してもらったんです。参加してくださった方はもちろん、ピアニストの方も、「本当に気持ちよかった!」「ピアノの森だ!」と、とても喜んでくれました。

ピアノの他にも、最近楽しみにしていることがあるようです。

最近は庭いじりを始めたんです。林の方の斜面に、木や花を植えました。3年くらいすると、段々形になってくると思います。テラスの脇には、花壇を作りました。最近ようやく形になってきました。庭は、時間をかけて少しずつですね。でもそれが楽しくて、70歳までに一段落したいなと思っています。

計画的に物事を進めることが、八ヶ岳の別荘での生活を楽しみ尽くすための否決かもしれません。最後にネガティブな面についてもお話を聞きました。

八ヶ岳で暮らし始めて、困ったこと、予期しなかったことなどはありますか?

予想外だったことは、あまり無いですね。困ったことといえば…

質問そのものに困ったご様子でしたが、ふと思い出したようにお話してくれました。

そういえば、キツツキが家の壁に穴を開けようとするんです。キツツキというと、自然の風景が思い浮かんでなんだかのどかな感じがしますが、とんでもないヤツなんです。

そう言って、家の外を案内して下さいました。二人で歩くと、妙な機械音が聞こえて来ました。

天敵となるフクロウの置き物を置いてみたんですけど、効果がなくて。それで、何かが近づくと音がなるセンサーを設置してみました。そうしたらね、来なくなりましたよ。
ある日気がついたら、スズメバチが巣を「作りかけて」いたこともあってね。早く気がついたから、すぐに駆除しました。あと、去年はアリが多くて。窓を開けるとどんどん家の中に入ってくるんです。どこからそんなに湧いてくるのかというくらい。なので、窓の脇にはアリを捕まえるホイホイを置いてあります。

お話を伺っているときには気がつきませんでしたが、窓の近くには必ずホイホイが置いてありました。

こういう静かで、自然の中の素晴らしい環境で暮らすということは、必然的に「自然との戦い」という側面があります。戦いというのは少し大袈裟に聞こえるかもしれませんが、分かった上で住むというのは大事かもしれません。鳥や虫が嫌いなのに、こんなはずじゃなかったというのでは、あまりにもったいないですから。

そう言いながらも、楽しそうに話をしてくださいます。

そうなんです、こういうことも楽しいんです。庭造りも、自然との戦いの連続ですからね。

建築性能に対するこだわりと、八ヶ岳の暮らしを徹底的に楽しもうという姿勢が、とても印象的なインタビューとなりました。少しずつ完成されていくお庭。5年後10年後の姿がとても楽しみです。

※当インタビューは2019年8月に行われました。文章・写真は全てお施主様のご承諾を頂いた上で掲載させて頂いています。