皆さん、大変ご無沙汰しております。この度、しばらくお休みしていました「住まいの学校」を、再度始めさせて頂くことになりました。どうぞ宜しくお願いします。
東京都政が小池知事の主導となり、最近では、豊洲問題と東京オリンピックの問題が、連日大きく報道されています。私としては、豊洲問題の今後の成り行きをとても興味深く見ています。
2013年の春に博多での講習会の依頼があり、講師としての出張がありました。個人的にも、九州に行く機会はなかなか無いものですから、休暇を入れ九州旅行も兼ねることとし、仕事を終えて博多の中州で宴会後、初めて九州新幹線に乗り、熊本へ向かいました。
熊本に着いて驚いたことは、駅前は新幹線開業に伴い整備され、比較的新しいビルが建ち並んでいましたが、人通りなど、街としての賑やかさがあまり感じられないことでした。しかし、滞在してわかったのは、熊本市内は熊本城を中心に繁華街が広がっており、熊本城創建の頃の街並みが残っているということ、しかもそれはとても活気ある華やかな街並みで、大変驚きました。熊本城の天守閣から見えたのは、初めに受けた印象と全く違った街の景色だったのを覚えています。
あれから3年たった今年の春、熊本が大変驚きの事態となりました。4月14日に発生した震度7の地震です。そらから間もない4月16日午前1時25分、熊本は再び震度7の地震にみまわれたのです。この地震による被害は、次のように報告されています。
死 者 98名
負傷者 2,422名
住宅の全壊 8,169棟
半壊 29,294棟
一部損傷 136,607棟
震度7という大きな地震が、短いスパンで2回発生したという事実は、大変衝撃的なものでした。
ここ最近の日本では、大規模な地震が10回程発生しています。その中で大震災と言われる主な地震を挙げてみます。
1995年 阪神淡路大震災
2003年 十勝沖地震
2004年 新潟県中越地震
2007年 新潟県中越地震
2011年 東日本大震災
また海外においても、中国、ジャワ、スマトラなど、多くの地域で地震が発生しています。これらの地震発生の状況から、地球が活動期に入ったのではないかとも言われています。
今回の熊本地震の発生後、メディアで地震学者の方々のインタビューを聞きましたが、結局のところ、地震の発生に関しては、事前には何ら予想が付かないのだということが理解出来ました。
以前の「住まいの学校」でも説明しましたが、阪神淡路大震災を受けて、建築基準法の木造住宅の告示規定が大幅に改正されました。それは、阪神淡路大震災で、数多くの木造軸組工法による建物が倒壊したからです。
これまでの地震と今回の熊本地震との大きな違いは、例えば阪神淡路大震災においては、地震後大規模な火災が発生したため、数多くの建物が消失してしまいました。従って建物が倒壊に至った詳細な検証が充分に出来なかったのですが、高品質な仕様が採用されていることが多い住宅展示場の建物も倒壊したことにより、その時点の耐震基準では、日本で起こる地震に耐えられないものであることが判明しました。また東日本大震災においては、地震後に発生した津波により、被害建物の多くが流されてしまう事態でした。
今回の熊本地震においては、2回目の地震が真夜中に発生したため火災の発生が比較的少なく、多くの建物が残りました。その為、被害状況の確認、また、建物がどのように倒壊に至ったのか、検証が可能であったのです。そしてその原因が徐々にわかってきています。
この表は、今年6月30日に国土交通省が開催した「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」の第二回で報告されたものです。建物の完成時期(=当時の耐震基準)ごとの建物の被害状況を分けているもので、ここで大きく分けられている部分の解説をします。
日本における建物の耐震基準は、1981年(昭和56年)に大きく変更されました。それまでの基準は、関東大震災発生後の翌年1924年(大正13年)に施行されたもので、これは建物の耐震性能については世界初となる法律でした。そして阪神淡路大震災の後、2000年(平成12年)に、耐震基準は再度見直され、大きく改正されました。各時代の耐震基準を簡単に言うと、次のようになります。
1981年以前 震度5で倒壊しないこと
1981年の改正 震度6で倒壊しないこと
2000年の改正 震度7で倒壊しないこと
しかし、震度7を記録した今回の熊本地震において、2000年の改正以降の新基準で建築された建物の被害状況は、最終的に次のように判明しています。
新基準木造住宅 319棟
内、倒壊大破 19棟 (6.0%)
内、軽微中破 104棟(32.6%)
内、無被害 196棟(61.4%)
2000年以降の耐震基準は、震度7程度の地震でも倒壊・大破しない構造が想定されていましたが、実際には、19棟もの建物が倒壊・大破してしまいました。重要なことは、2000年の新耐震基準以前に建築された建物のおよそ2割が、倒壊などの重大な被害を受けているということです。この数値は、震度7を記録した益城町だけに当てはまるものではなく、日本の全ての地域で起こり得る数値であってもおかしくはない、と思われます。建築の業界雑誌である日経ホームビルダー10月号には、1981年から2000年までに建てられた住宅のうち、8割超が震度7の地震で倒壊の危険性がある、という記事が掲載されていました。大変衝撃的な報告ですが、これは、以前から言われていたことです。
熊本地震発生後、ある住宅メーカーの総会に出席しました。その会社は、合板などの接着剤を使用している建材を一切使用せず、健康に良い建材を使った家造りを売りにしているメーカーです。そのメーカーの熊本事業所圏内では「今回の地震で1棟の建物が倒壊した」と発表され、そして「1棟の倒壊で済んだ」という事実に、安堵を感じている様子でした。「大地震だから仕方が無い」、「自分達は建築基準法に従って造っている」、「私達は何ら悪くない」、このような発想しか出来なかったのでしょう。私はその時、1棟でも、倒壊したことに対する反省が無さ過ぎる、なんという会社だ、と呆れました。
熊本地震の状況は、様々な映像により報道されてきました。1階部分が潰されるように倒壊してしまった大学生が多く住むアパートや、土砂に流された住宅など。それらはかなり古い建物が多く、震度7という揺れに耐えることは出来なかったであろうと感じました。そのような映像を見るたびに、建築に携わる専門家として「私達は国民の生命と財産を守る」ことを目的として仕事をしている点をしっかり自覚しなくてはいけない、と、改めて強く思います。近年は、地震以外にも、スーパー台風などと呼ばれる大型で勢力の強い台風の発生も、日常的となってきています。
2020年という年は、東京オリンピックで話題になっていますが、私達建設業界では「低炭素住宅」以外の住宅が建てられなくなるリミットの年でもあります。これまでは、断熱工事は建築基準法の規制外であったため、業界には曖昧な状態で施工している人たちが少なくなかったのですが、今後はそのようなことは許されなくなります。
住宅を建築するということは、地震や台風に強い建物であることの他に、冬でも暖かく省エネ性能の高い住宅であること、雨漏りのしない住宅であることは当然でなくてはなりません。それ故、建物を建てるということについて、私たちはどのような事前の準備と検討が必要であるのか、今後の「住まいの学校」で明らかにしていきたいと考えています。