第4回

耐震等級とは

〜 ”安全性の数値” どの様に出された結果であるかの見極めも重要な要素 〜

 先日、秋田美人の歴史について解説しているテレビ番組があり、秋田県出身の両親を持つ私は、とても興味深く見ていました。その番組の中で画面に映り、とても印象に残ったのがこのポスターでした。これは、昭和28年に撮影されたもので、モデルさんは、当時19歳の一般の方だったそうです。


昭和28年に撮影された『秋田美人』のポスター


 その時々のポスターを飾る顔は、その時代の流行などを映すものでもあるのでしょうが、このポスターの女性は何とも美しい顔立ちで、どことなく、異国のDNAが混じっているように感じます。研究されている方の調査によると、秋田県人のうちおよそ1割が、白人しか持たないDNAを持っているそうです。
 大変残念なことですが、私の場合は、両親は共に9割の方に属していたようで、子である私も当然、何とも日本人そのものです。


 住宅においても、時代によってデザインの流行があります。バブルと呼ばれた時代には、アメリカの伝統様式的な意匠、装飾の家が多く好まれ、バブル崩壊の後には、北欧的なデザインが好まれるようになりました。最近では、南フランス風の意匠が好まれたりしています。
 何を持って美しいと思うかは各人の好みの問題ですから、他の人はその件に関しては何とも言えません。しかし、住宅の性能に関しては、技術的な分野ですから、客観的な数値で比較することが出来ます。


 住宅を売る側の宣伝文句に、「当社は地震に強い家造りをしています」とか、「当社の住宅は省エネです」などの言い回しが多く見られます。かつて、「当社は特別なノウハウを持ち、高気密高断熱の住宅を造っています」と宣伝している会社がありました。その会社では、法により設置が義務化される以前から、海外の省エネルギー住宅の仕様などを参考に、24時間換気システムをいち早く導入していました。その後、日本国内でも24時間換気に関する法が整備され、施行されていく訳ですが、その会社で採用してきた換気システムの換気量が、日本の基準を満たしていなかった事実が判明する結果にもなってしまいました。技術の分野は客観的な数値で判断できるものですが、その数値がどの様に出された結果であるかの見極めも、重要な要素であることの一例です。


 住宅の性能を正しく確認できることは、実際に住む人にとっても大切なことです。かつて起きた耐震偽装事件以降、建築に関する法律は、その反省も踏まえた形で整備されていきましたが、2000年(平成12年)に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」、「住宅性能表示制度」は、様々な住宅の性能に技術基準を設け、一般の方にも内容をわかり易くしようとしたものでした。大まかには、以下のような項目に分けられています。

  • 1. 構造の安定に関すること
  • 2. 火災時の安全に関すること
  • 3. 劣化の軽減に関すること
  • 4. 維持管理・更新への配慮に関すること
  • 5. 温熱環境・エネルギー消費量に関すること
  • 6. 空気環境に関すること
  • 7. 光・視環境に関すること
  • 8. 音環境に関すること
  • 9. 高齢者等への配慮に関すること
  • 10. 防犯に関すること

 住宅性能表示制度の発足当時、この制度は、将来新築される住宅のおよそ8割で利用されるのではないか、と考えられていたようですが、現状では、一般の木造住宅の11%弱程度の利用しかされていないようです。
 今回の住まいの学校のテーマは、この制度の中から「構造の安定に関すること」のうちの「耐震等級」について、掘り下げようと思います。


 住宅性能表示制度の中の耐震等級には、倒壊防止と損傷防止の2種類がありますが、通常目を向けられるのは、倒壊の防止です。そしてその等級には1~3があり、基準は以下の通りです。

等級1 震度7程度でも倒壊しないこと(建築基準法に定める内容)
等級2 建築基準法の1.25倍の対策がされること
等級3 建築基準法の1.50倍の対策がされること

 阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震で震度7が記録されましたが、日本における震度表示は7までしか無いため、同じ震度7であっても、揺れの激しさについては一律には言えないこととなります。したがって建築基準法で言うところの「震度7で倒壊しない」という点についても、どの程度の揺れの強さを想定するかが曖昧な表現であると私は考えています。


 では早速、前回第3回・構造規定の変遷で行った建築基準法の壁量計算(耐震等級1)について、実際に建てた建物で検証を行ってみます。検証建物の条件は以下の通りですが、耐力壁については、前回とは異なり筋かいでは無く、構造用合板を使用することとします。
 なお算定式に赤で示す数値は、床面積当たりの必要耐力壁長さを算出するために定められた係数で、この係数については、前回詳しくお話しした通りですので、興味のある方はご一読ください。

住まいの学校第3回 構造規定の変遷

(検証建物の条件)
構造:軸組木造2階建て、 屋根:鋼板葺き、 外壁:板張り
1階床面積:66.24㎡、 2階床面積:39.74㎡
使用する耐力壁:構造用合板、 壁倍率:2.5倍


耐震等級1 耐力壁位置図

「耐震等級1」での検討では、2階については建物外周部分の壁だけで耐力壁量は充足しています。しかし、1階については、外周部だけでは不足したため、2階の壁との位置関係を考慮のうえ建物内部にも耐力壁を設け、必要壁量を充足しました。


 では、構造耐力が「耐震等級1の1.25倍」と断然強くなると思われる「耐震等級2」の検討となると、一体どうなるのでしょうか。必要耐力壁量を算出するための計算過程が建築基準法で定める壁量計算とは変わりますので、ここでは割愛し、検討結果のみの表示とさせていただきます。

耐震等級2 耐力壁位置図

 「耐震等級2」での検討では、2階についての耐力壁量は現状でも充足しています。しかし1階については、必要壁量2236(cm)に対し、Y方向で2047(cm)しかないため、耐力壁が不足している結果となりました。


 普通に考えると、これを是正するため、不足分の耐力壁を増やすこととなりますが、住宅性能表示制度では、「準耐力壁」も考慮した検討方法が整備されています。「準耐力壁を考慮」とは、「面材を使用した壁が、一定の条件を満たしていれば、開口部も耐力壁に含む事が出来る」というもので、基本的には、開口部があっても、その両側に耐力壁が存在すれば、通常耐力壁の60%程度の耐力は存在すると考えることが出来る、というものです。
 したがって検証建物の場合、耐力壁には面材(構造用合板)を使用しているため、準耐力壁を考慮した壁量検討が可能となります。

準耐力壁を考慮した壁量検討が可能。

 検証建物で準耐力壁の条件を満たすのは、下図の通り、壁倍率に丸を付けた、開口がある壁になります。この壁の耐力を通常壁倍率の60%として、1.5倍の壁倍率が見込めます。

耐震等級2 耐力壁位置図

 この様に、実質的に耐力壁を増やさなくても、開口部分の準耐力壁を数値としてプラスすることによって、耐震等級2を確保することができました。耐力壁の配置は耐震等級1の時と何ら変わらない状態でも、耐震等級2にもなり得るという、何とも不思議な話です。


 では、構造計算を行った場合はどうなるのでしょう。前回第3回・構造規定の変遷では、構造計算と壁量計算では、必要耐力壁量の算出の仕方が違う点を述べましたが、実際にどれだけの違いになるのか、検証建物の場合で比較してみます。

構造計算と壁量計算の違い。

 同じ耐震等級2でも、必要耐力壁量は、構造計算と壁量計算では、およそ2倍の違いとなっています。そしてこの必要耐力壁量を満足するため、構造計算で計画した耐力壁の配置は、下図のようになりました。なお構造計算では、準耐力壁の算入はしないため、あくまでも実質的な耐力壁だけの配置です。

構造計算で計画した耐力壁の配置図


 同じ耐震等級2を満足した建物であっても、その検討過程が構造計算であるのか、壁量計算であるのかでは、安全だとする基準に2倍以上の違いがあるのは驚きです。そして、建築基準法の壁量計算である耐震等級1が、本当に震度7の地震で倒壊しないのかが不安になります。
 熊本地震の建物被害のメカニズムが解明されていくにつれ、多くの学者さんが「構造計算」の必要性を提案していますが、それは何故でしょう。熊本地震では、耐震等級2の建物が倒壊した事例があり、何故だとの意見が出ましたが、言い換えれば、それは、壁量計算で行う耐震等級2では、安全性が上がったとは言えない建物が存在する、ということになります。


 冒頭で「住宅の性能に関しては、技術的な分野ですから、客観的な数値で比較することが出来ます」と述べましたが、「技術の分野は客観的な数値で判断できるものですが、その数値がどの様に出された結果であるかの見極めも、重要な要素であることの一例です」とも述べました。事実、「耐震等級2を確保しています」と謳われている建物であっても、その検証過程が構造計算であったのか、壁量計算であったのかによっては、「耐震等級2」について安全とする基準に大きな差がある、これが現状なのです。熊本地震以降、多くの学者さんが訴えているのは、まさにこの現実です。


「耐震等級」を定めた住宅性能表示制度の本来の目的とは、一体何だったのでしょうか?熊本地震で浮彫りとなった問題を踏まえ、建築技術の世界は、また新たに見直され、進んで行くのだと思います。




住まいの学校 トップ