皆様お久しぶりです。長い間お休みを頂いた事を心よりお詫び申し上げます。決してのんびりとバカンスをしていたわけではありません。皆様もすでにご存知のこととは思いますが、昨年6月に建築基準法が改正をされ、建設業界が大混乱をしていました。皆様の記憶にも新しい「姉歯」事件によるものです。
最近聞いた話ですが、アンケートによりますと、一般の人が知っている日本の建築家で
一番は、最近亡くなった 黒川記章
二番は、コンクリート建築で有名な 安藤忠雄
三番は同番で、都庁を設計した 丹下健三 と 姉歯秀次
に、なったそうです。
姉歯を建築家には含むことは出来ませんが、歴史に名を残した事は事実です。子供の頃、テレビで建築家がドラフターに向かって設計をする姿を見て、 何とカッコ良い職業であろうと強く思いました。また、昭和40年代においては、人気職業の上位に一級建築士が挙げられ、結婚したい職業の第一位になった事もあるぐらいで、 今では考えられない事です。そんな子供時代の憧れから、私も設計を目指し、25歳で一級建築士の資格を取得しました。資格を取って何か変わったかと言うと、何も変わりませんでしたし、女性にもてることもありませんでした。 かつてはテレビドラマで、田村正和や木村拓哉が設計士を演じ人気になりましたが、それは彼らが演じたからでしょう。
そのドラマでは、木村拓哉拓也演じる設計士が一晩で設計図を描き上げたり、田村正和演じる設計士が、現場に行って自分のイメージと違うと言って窓ガラスを割るシーンがありました。どんなに小さな住宅であっても、一軒分の設計図となると、図面はA2版の大きさで20枚くらいの枚数になります。 ドラマで設計されていたのはもう少し大規模な建物でしたから、設計図はその何倍も必要なことになります。その設計図を一晩で仕上げてしまう。しかも手描き??? 是非、オルケアに来て欲しいものです。
設計図とは、家を建てる上での一つの手法であり、意志伝達の手段です。昔の設計図は「板図」と言うもので、棟梁が板の上に墨差を使用して、間取りや構造図を作成していました。 そしてその「板図」を元に材木の加工を行い、寸分違わない建物を造っていました。当時は家造りに係わる業種も少なく、棟梁が着工から引き渡しまで、ほぼ全工程に関係していたのでしょう。それ故、意思の伝達も口頭で、確実に行われていたのだろうと推測します。 おそらく、間取りの変更も無かったのでしょう。
近年、建築業界では度重なる不祥事が発生しました。その度毎に法律が改正され、事前に行う検証内容が増え、建築確認申請においても審査項目が増えました。昨年6月20日には、姉歯問題を受けて、建築基準法の改正が大規模に行われました。今回の改正は、建築確認申請に関する事項、建築士の責任や罰則を明解にした事項、 構造計算に関する事項の改正が多く、設計においては、今までの作業の倍以上の時間がかかるようになりました。家を一軒造ることは、何万点もの部品の集合体と言われており、自動車産業と並ぶ複雑な業界です。しかし、自動車は既製の物を購入して乗りますが、家はほとんどがオーダーメイドです。一軒の家には、1セットの設計図があります。どんな家にも設計図はありますが、問題はその設計図に何が描かれており、どこまで検討されているかです。 構造計算や換気計算などの様々な検討事項は、設計図上に記載して検証することは難しいため、ほかの書式で検証を行った結果を設計図に記入します。 手間はかかりますが、設計士としては行わなくてはならない事です。設計図には、設計士の設計責任があるからです。その為、設計図には設計士の署名が必要になります。
しかし、姉歯問題が発覚して以降、2階建ての建売住宅を多数販売していた会社でも、構造計算を行っていなかった等の事実が明らかになりました。八ヶ岳南麓北杜市は、建築の手続き上、建築確認申請が不要な区域が多い市です。その為、構造計算、換気計算等が検証されていない建物も、多数存在しています。 設計責任とは、建築確認申請等の手続きに必要だから行うものではなく、責任ある建物を設計するために必要である検証を、自ら行っていくことです。 経済性や、設計士の根拠を持たない経験のみに頼っては、姉歯問題と同じになってしまいます。
そもそも設計図とは誰のためにあるのか?
もちろん施主のためのものです。しかし、素人の人に設計図の内容の善し悪しの判断は出来ません。最低限必要なことは、口頭で打ち合わせを行ったことが図面に反映されているかの確認を行うことです。先にも書きましたが、設計図は意志伝達の手段にすぎません。設計図に描かれていないことは、決して現場に伝わらないでしょう。
皆さん、自分の家の設計図をもう一度よーく確認してください。設計士の名前は有りますか?打ち合わせの内容は全て描かれていますか?図面枚数は何枚ありますか?