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金物について

アジアの極東に位置し、はるか昔より「日出る国」と称されてきた美しい国、日本。四季があり、季節毎に花が咲き、豊富な水源を持ち、海の幸・山の幸に恵まれた、自然豊かな国。「以和尊成」 和を以って尊しと成す、を基本理念としてきた私達です。

美しい国、日本

しかし、自然の美しさの裏側には、自然の恐ろしさがあり、和を維持する為の試練も多いのです。周知のとおり、日本は大陸の極東に位置しているため、 いくつものプレートが重なりあい世界でも有数の地震の多い国であり、震度3程度の地震は日常的に多くあります。自然から与えられる試練として残念ながら私達のどの世代でも実体験のあるものに地震があります。最近の例をみてみましょう。

    1978年 宮城県沖地震
    1983年 日本海中部地震
    1984年 長野県西部地震
    1993年 北海道南西沖地震
    1994年 北海道東方沖地震
    1995年 阪神・淡路大震災
    2000年 鳥取県西部地震
    2004年 新潟県中越地震

このように、ここ30年の間に、大地震と呼ばれるものは8回も発生しています。また、関東大震災は60年毎に起こると言われており、「何時来てもおかしくない」と言われて、大分時間が経ちました。日本で生活する以上、人生の中で大地震に遭遇する可能性はかなり高いものと言わざるを得ません。また、弱い地震は日常的に発生しているため、私達は微弱な揺れには慣れてしまっていて警戒感が薄れているようにも思います。

もうひとつの試練として、皆が毎年経験するものに台風があります。フィリピン海沖で発生する低気圧が勢力を増しながら北上し、日本は毎年、4~6個程度の直撃を受けます。毎年7月~10月は台風シーズンであり、スクーバダイビングが趣味の私としては、その時期は飛行機の予約をしても、当日潜れるのか? 帰りの飛行機は飛ぶのか? と、いつも心配です。

地震や台風の被害をテレビで見るにつけ、常に問題となるのは、倒壊した建物の数や、台風により飛ばされた屋根の数などです。不思議な事に、「どうして建物が倒壊したのか?」「どうして屋根が飛ばされたのか?」といった話題はあまり聞かれません。

以前にも述べたように、建築基準法では「国民の生命と財産を守る」と謳われているにも関わらず、これを守れないでいる事は、業界としては恥じ入る事です。

建物は、地震であれば 「阪神・淡路大震災」、台風で有れば 「伊勢湾台風」 に、持ち堪えられるように造らなくてはいけせん。

よく、「木造住宅で、地震や台風で倒壊しない建物は造れるのですか?」 という問いを聞くことがあります。「建築基準法を理解し、正しく設計を行い、正しく施工を行えば、前述程度の地震も台風も問題ありません」これが答えです。正しい設計には、

  • 1. 地盤調査を行い、地耐力に見合った基礎の設計を行う
  • 2. 構造計算を行い、耐力壁の配置と偏芯の検討を行う
  • 3. 耐力壁の配置による、引き抜きの検討を行う

しかし以上の検討を行っても、金物の施工がきちんとされなくては、何にもなりません。金物とは、木造住宅においては部材同士を確実に緊結するものであり、 木造の軸組を構成する各部位毎に細かく規定されており、金物にも、数多くの種類があります。基本的に木造住宅は、木と木を組み合わせて造りますが、その接合方法は、差込み式の「ホゾ」であったり、釘による留め付けが主流です。しかしその接合方法だけですと、普段何も無い時は良いのですが、台風など吹き上げの風によって屋根が飛ばされたり、地震の際に筋交いが取り付く柱が土台から抜けてしまい、そのまま倒壊すると言う事態が多く発生します。

では、どの様にすれば良いのか?

基礎から野地合板までの全ての部材が、釘や金物によって緊結されなくてはいけません。台風により屋根が持ち上げられても、地震により建物が揺れても、全ての力が基礎まで伝えられ、しっかりと支えられるようにならなくてはいけません。金物は正しく使われていなくてはその効力が発揮できないのです。各部材毎にかかる力を割り出し、その力を支える金物を選択し、正しく取り付けを行う。あたり前の様ですがこの事がなかなか出来ていません。しかもその金物を正しく取り付ける為には正しい長さや太さのビスや釘を使用しなければ意味がありません。

現場で見かける光景として、取り付け易い金物を、取り付け易いところに取り付けやすいビスや釘で取りつけている例があります。未だに、造り手の理屈だけで施工をしているのです。

皆さんの設計図には、金物の取付け位置や使用すべき金物、更には金物を取りつける為のビスや釘の種類まで指定してありますか? まず、設計士としての最低の責務を設計書上に明記すべきです。

施工が始まったらそれらの金物取付の検査や記録が報告されていますか?
また求めに応じてそれらの書類を出してくれますか?

なれあいをもって「和」とは云いません。お互いの責務をあたりまえの事として確認しあう。この事が大切です。

台風で屋根が飛ばされたり、地震で建物が倒壊しても、「以和尊成」の精神で、すますことはできないのですから。