前回までは、土の中の、出来上がってしまっては見ることの出来ない部分について書いてきましたが、今回はやっと、土の上の部分について書きます。
陽の光とは、ありがたいものです。特に冬の時期、南側の低い角度から差し込む光は、部屋の奥まで暖かくしてくれ、何者にも換えがたいものです。ここ八ヶ岳は緩い南傾斜であり、また雪積も少ない為、日当たりさえ良ければ、家の中は冬でも暖かい地域です(断熱が良ければ、ですけどね)。古来より伝わる日本の木造住宅は軒の出が大きく、夏の高い日差しをさえぎり、冬の低い日差しを取り込むことで、自然との共生ができるよう造られました。 敷地が広いから出来ることですが、かつては都会の住宅もそのように造られていました。
以前、あるテレビ番組で「南側全面に窓を取り付け、景色を部屋一杯に取り込む」住宅が紹介されているのを見たことがあります。 ここ八ヶ岳でもそのような住宅を見かけますし、そのようなデザインを得意とする設計士もいます。そのような住宅を見るにつけ「この設計士は構造の事を考えているのかな?」 と心配になります。
もし地震や台風が来た場合には、家がどのように耐えるよう考えられているのか?阪神淡路大震災では、南側に耐力壁の無い建物は、中古・新築を問わず倒壊しました。
この震災以降の法改正で、耐力壁の配置は、偏芯の検討を行うことが義務付けられました。偏芯とは、地震などの際、 例えば建物の南側には壁が少なく北側にはたくさんの壁が有り、壁の強さのバランスが悪く、建物が捻れて倒壊する事です。
確かに木造建築の中には、数百年以上の時を経て未だに自立している神社・仏閣などがあるのも事実です。その様な建物は、当時の国家的事業として造られ、その時代最高の技量を持った人達と材料を使って建てられています。その為に先人たちの知恵を結集した結果いくつかの建物が現在まで残っています。しかし、数多くの建物は地震などにより倒壊しています。残念なことに私達の建物は国家的な事業では無く、予算にも限りがあります。
では国の方針、指導はどうなっているのでしょうか?
今までの法律では「耐力壁はバランス良く配置する」と、なんとも曖昧な表現でした。そして、その「バランス良く」の判断は設計士に委ねられていたのです。
ところがデザイン設計にたけた意匠系の設計士の中には、計算が苦手だったり自分の経験のみを便りに判断している方も多いのです。
傾斜地の基礎をガレージや地下室に利用して、木造の平屋を建てる様なケースも異構造の建築として厳密な構造計算が必要なのに、 「平屋だからそれほど大きな問題は起こりえない」といった根拠のない自信だけで、「バランスが良く」考えてあると云われても、不安は募るばかりです。
皆さんも担当された又は担当予定の設計士さんに壁量計算書や偏芯検討書、引き抜き検討書の提出を求めてみて下さい。そうした書類がすぐに出てくると良いと思います。
もう一度整理をしますと、耐力壁とは、木造在来工法においては、柱と柱の間に斜めに入っている「筋交い」と呼ばれる部材を必要とする壁部分をいいます。最近ではその他に、構造用合板などの面材も含まれています。現在は、耐力壁は建物ごとに計算を行い、平面的に耐力壁の配置と長さを決め、計算を行うことが出来ます。
また、耐力壁の使用材料によって計算根拠となる強度が変わります。例えば、筋交いであれば、
3cm x 9cm で 壁の長さの1.5倍
4cm x 9cm で 壁の長さの2.0倍
構造用合板9mm で 壁の長さの2.5倍
となります。
実際には、筋交いの取り付け方や面材のとめ付け方など、詳細な規定があります。平成12年に改正された法律の通りに施工されれば、大地震が来ても問題ないものとされています。しかし「姉歯事件」以来、問題が表面化した事がありました。
木造2階建ての構造計算は設計士の判断事項であり、建築確認申請の審査事項にはなっていません。その為、ある大手建売業者では、 実際には構造計算を行わずに建てた、数千棟の欠陥住宅の存在が明らかになりました。
前にも書きましたが、この八ヶ岳地域は確認申請が不要の地域が多くあります。地震国の日本全体があまりに楽天的に、「人の生命と財産を守る」筈の家を建てることに不安を覚えます。