第7回

木造建築の可能性

〜 技術の進歩により、その用途が大きく広がる木造建築 〜

日本では夏休みの時期も終わり、これからは食の秋がやってきます。それにしても、今年の夏は何とも変な気候でした。関東地方では雨の日が多く、気温も上がらず、海やプールなどで遊ぶ人も少なかったようです。この様な夏であったのも「地球温暖化」の一因と言われています。

最近では学生の就職活動も早まり、7月頃から上下ダークカラーのスーツを着た若者たちが街中に多数見られました。「この暑い中スーツを着て大変だなー」と思います。若者たちがどの様にして職業を選択しているのかはわかりませんが、生涯の仕事に出会えると良いと思います。

そもそも私が建築士になったきっかけは、とても些細なものでした。6歳位の頃、デッキの改修工事のため大工さんが3日間ほど家で作業をしており、物珍しさもあり、時間の許す限りそれを見ていました。その時の感想は「自分の腕で材木を加工してデッキを造る、何とも素晴らしい」というようなものだったと記憶しています。やがて大人になり「さて何をやろう?」と考えた時に、その頃の記憶と思いが湧き出し、今に至ります。

先日、仕事の関係で島根県の松江に行く機会があり、夕方の飛行機で出雲空港に到着し、バスで松江市内に入りました。初めての訪問で予備知識も少なかった私は、城下町の品格が漂った古い街並みが残る市内の様子に、とても感激した次第です。島根県は太平洋戦争での空襲を受けなかったため、この様な街並みが残存し、城の天守閣も残っているそうです。

松江城

城を見るのが好きな私は、翌朝早々にホテルを出て松江城に行ってみましたが、まだ時間が早かったため、大変残念ながら天守閣の中を見学することは出来ませんでした。

日本の城で建設当時のまま残っているものには、他に姫路城、松本城、彦根城などがあります。かつて日本では、多くの大規模建築が木造で造られてきました。補強や修復は繰り返されているにせよ、その手法はあくまでも建築当時の技術を継承したものであり、当時の木造建築の技術力の高さには本当に驚かされるばかりです。

建築士の資格免許にはいくつか種類がありますが、古くから変わっていない免許として、二級建築士、一級建築士というものがあります。

それぞれには設計できる建物の構造・規模が定められており、簡単に分けると、木造や小規模な鉄骨造・鉄筋コンクリート造の建物の設計を行うのが二級建築士、構造の別無く大規模な建物の設計までを行うのが一級建築士、となります。建築業界の住み分け的にもっと平たく分けると、木造(小規模住宅系)は二級建築士、鉄骨造・鉄筋コンクリート造(ビル系)は一級建築士、というところでしょうか。実際に二級建築士が設計できる建物の範囲は、木造建築であれば3階建てまで、多くの人が集まる特殊建築物においては500㎡まで、とされています。

私が建築業界に入った40年程前は、木造建築と言えば2階建てまでが一般的で、建物用途は住宅かアパートにほぼ限られていました。

やがて、私が建築業界にすっかり馴染んだバブル期の頃、木造建築の構造解析が進み、木造による3階建ての建築が可能となりました。その頃には防耐火に関しての実験なども進んでおり、木造建築においても、準耐火性能が期待できる被覆が確立されます。「火災に弱い」とされていた木造建築が「火災にも耐え得る」ものとなりました。

その後の平成15年(2003年)には、純粋に火災に強く、鉄骨造・鉄筋コンクリート造と同等の耐火性能を有する木造1時間耐火建築物(以下、「木造耐火」と表記します。)が認定されました。その結果、木造でも4階建ての建築が可能となり、様々な用途の建築が出来るようになりました。ホテル・保育園・病院・老人ホームなど、大型で公共性の高い建物が、木造で建築出来るようになったのです。

ビル建設関係の職人さん達の高齢化が進み、また新規で職人さんになる人が減ってきている昨今、ビル業界のコストアップは深刻な問題となっています。しかし木造耐火の認定により、これまでは鉄骨造・鉄筋コンクリート造で建設されてきた建物が木造で建てられるようになり、材料のコストを抑える選択肢が増えました。それまで鉄骨造・鉄筋コンクリート造の商圏だったところに、木造が参入した形です。

日本で第1号となった木造耐火の4階建。著者設計。

写真の建物は、私が設計した日本で第1号となった木造耐火の4階建てです。用途は共同住宅、首都圏の狭小地に建ち、ツーバイフォー工法を採用しました。

木造耐火が認定される以前は、同じ規模の建物を建てるには、鉄骨造・鉄筋コンクリート造いずれかの選択肢しか無く、いずれも木造よりもコスト高となるため、階数をひとつ減らし、3階建てとして木造を採用する事例が多く見られました。特に事業用の建物の場合、4階建てと3階建てでは収益にも大きく差が出るため、木造耐火の認定はとても有益なものとなっています。

4階建てや大型の建物は、木造であっても一級建築士でなければ設計できません。木造(小規模住宅系)は二級建築士、鉄骨造・鉄筋コンクリート造(ビル系)は一級建築士、と平たく述べましたが、この住み分けがある建築業界では、同じ一級建築士でも、日頃ビル系の設計が多い人は木造に疎く、その反対も然り、であることが多いのが現実です。商圏が広がった木造建築ですが、その分、ビル系の一級建築士が木造の設計を行う場面も増えてきています。

昨年、私のところに「鉄骨造で計画していた3階建ての保育園ですが、コストが合わなくなったため、ツーバイフォー工法で建築できますか?」との問い合わせがありました。

設計内容を確認したところ、木造耐火によるツーバイフォー工法でも可能であったので、設計を引き受けました。

この保育園は、今年の春に無事開園しています。工期の面からも木造の方が早く出来たこと、コストの面からも鉄骨造や鉄筋コンクリート造よりも安く出来たことで、施主にとっての利回りも大変高くなりました。

木造耐火によるツーバイフォー工法3階建

実際に、木造の老人ホームや保育園等の建物を使用している方々に伺ってみると、「木造の方が柔らかく、暖かい」と言われることが多くあります。木造は断熱性が高いので、省エネ性能は圧倒的にあると思います。今後は、学校の木造化も進んでいくようです。

東京オリンピックに関連した需要で、ビル建設関係の職人不足は全業種に渡ってきており、その為にも、木造建築の拡大が必要となってきています。

その様な中、茨城県つくばの実験場で、木造による6階建てが試験的に建築されました。来年には木造6階建てが建築可能となる予定で、今後は多くの公共建築物などが木造化されていくものと思われます。

試験的に建築された、木造による6階建て

建築業界の進化は、まだまだ続きます。ビルの業界と住宅の業界との住み分けの垣根が無くなっていくことで、今迄とは違う能力を有する方々の参入が必要となり、また、様々な国の人々が働くようになると思います。

私が八ヶ岳方面に仕事で行くようになったのは、今から20年程前のことです。行ってみて感じたことは、首都圏に比べ、八ヶ岳地域には大変腕の良い職人さん達が多い、ということでした。現場に出向き職人さん達と話をすること、そして、時には技術論で熱くなったりすることは、私にとって大変楽しいことです。

建築業界は、今後も様々な方向に向かって進んでいきます。その為には、多くの若者たちが建築業界に魅力を感じ、進出してきて欲しいと感じます。かつて、私が大工さんを見てこの業界に入ったように、私を見てこの業界に入ってくれる若者がいると良いのですが。




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