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地域の景観を残し、建築の外観も含め設計。徹底的にデザインにこだわった桜の丘の家

「桜の丘」として地域で親しまれた土地

「桜の丘」に建つ家

S様が別荘を建てられたこの場所は、周囲の見通しも良く、なだらかな斜面のてっぺんにあたる小さな丘の上でした。この丘の上には桜の木が立っていて、地域の方からは「桜の丘」と呼ばれ親しまれていました。設計の依頼を受けたオルケアの阿部建築士はこの土地を見てまず、「桜の丘の原風景だけは絶対に留めよう」と決めました。設計はまず「桜の木」を中心に検討され、家を囲むように新しい木々も植えました。

家を囲む植栽は、10年後20年後の姿を想定して植えられました

桜の木を中心に、「木々に囲まれた家」をコンセプトにしました。遠目から見たときには、木々に囲まれた丘の上に立つ姿が、眺められるように。近くに寄ったときには、周囲の木々が視界をコントロールし、建築の全体像がはっきりと見えないようにしました。地域の景観を残すことはもちろん、家の佇まいを整え、建築の中のプライベートに配慮しました。

土地の景観、建築へのアプローチ、ランドスケープデザイン

「土地の景観」と「建築の佇まい」をデザインの根本に置いた設計ですが、家へのアプローチがあまりに奥まっていたり、入りづらいのでは良くありません。車道に接した駐車場は広々と開口させ、家の「外と中」の接点となる場所の、安心感と訪れやすさを大事にしました。

駐車スペースは広々と。ここから見えるこの土地の将来の姿が楽しみです

駐車場から見える建築の姿にも気を配りました。植えた木々が10年後20年後にどのように成長するか。将来の姿を見据えたデザインです。その頃に、ここから見える景色がどのように完成するのか、今からとても楽しみです。

駐車場から玄関までのアプローチ


玄関から車庫へ下る階段

来客の方が車を降りて、あるいは施主様がガレージに車を置いたあと、家の玄関までに続くアプローチにも細かい部分にまで気を配りました。車を降りてまず何が見えるのか。階段を数段上ったときに、視界に入る照明や置物。初めて家の姿を正面に捉えたときの、その見え方など。突然に家の全容が見えすぎてしまうよりも、少しずつその姿が像を結ぶような設計を目指しました。木々はもちろん、あえて視界を遮る造作物を添えたり、いろいろな場所から建築を眺められるようにアプローチを工夫しています。

大人数でのバーベキューが楽しめるウッドデッキ

家の中に入るまでの道のりは、その家に訪れる以上かならず経由する導線です。その地域内での見え方、遠くからの眺め、建築に近づいたときの視界の変化、玄関へのアプローチまで。施主様とそのお客様が玄関につくまでのその間に、木々の成長と変化を確認し、建築の姿をいくつもの角度から楽しむことができる。建築の中身のみならず、暮らしや毎日の生活までも含めた「ランドスケープ」をデザインした建築です。

内装や家具もすべてオリジナルデザイン

家の中心となるダイニング。玄関脇のステンドグラスは、国内屈指のメーカーによるもの。

設計の早い段階から、施主のS様はオルケアの建築に大きな信頼を寄せて下さいました。内装全般はもちろん、建具や照明・家具に至るまで、施主様のご希望を伺いながら、ほぼすべての箇所についてデザインと提案を行いました。

皆が集まるダイニング。左右の対象・非対称のバランスに気を使いました。


ダイニングからリビング側を眺める


大きな窓が美しい田園風景を切り取る、リビング

家の中のどこにいても、均整が取れて美しく、そして心なごむような造形が視界に映るように、徹底的に計算しデザインしました。窓の位置や大きさは、その窓が切り取る風景を、将来の形も含めて設計しています。残念ながら敷地の南側には電線が通っています。このリビングからの眺めにも、電線が入り込んでしまいます。電線の奥には高速道路が走っています。そこで、家の周りの苗木は、何年か後にこの電線や高速道路の姿を消してくれるように植えられました。そのときこの窓が切り取るのは、生い繁る木々の合間に美しい田園風景が広がる、絵画のような素敵な風景になるはずです。

朝日を背に、家族の顔を見ながら調理のできるキッチン

見た目だけでなく設備や機能にも工夫があります。大きな窓を背にしたキッチン。朝日を背に受けながら、ダイニングにいる家族やお客様との会話を楽しめる配置です。

朝食や軽食のための小さなテーブル。朝日が見える。

キッチン脇には、朝食やちょっとした軽食、お茶を楽しめる小ブースを設置しました。木々がもう少し成長すれば、ちょうど良い加減の朝日がこの場所に注ぎ込みます。

1階は全面バリアフリー。無駄なスペースは徹底的になくしました。

室内には、家全体に切れ目のない床暖房を配備しました。寒い冬にも快適に過ごせるようにとの施主様の希望。暖房効率を上げるための「高気密高断熱」はもちろん、フロア全体に均等に床暖房の熱が伝わるような設計を行っています。こうした設計は、実際の広さ以上に「広く感じられる」生活空間の実現、無駄のないスペース活用という側面もあります。

北側に設置したベンチとそのアプローチ。数年後には木々に囲まれた場所になります。

S様の事例では、デザインと造形の美しさに妥協せず、徹底的にやり込むことができました。私たちの建築のひとつの到達点だという思いがあります。施主様のご要望やご希望に、デザインや設計上、できるだけ高いレベルでお応えするという挑戦。しかしともすると、デザインだけが主張しすぎて「生活のしやすさ」とのバランスが崩れてしまうこともあります。そうした場合には、オルケアの社内で、ときには施主様も巻き込んで、激論が繰り広げられたものでした。

建築にはいろいろな側面がありますが、施主様と、そこで暮らす方のために、最適な応えを導き出すことが第一です。出発点がどこであれ、議論をし尽くし考え抜いた結果には、当事者にとって「正解」に近い答えが待っています。今回の事例はオルケアの家づくりにおいて、特に「デザイン」という視点に重心を置いて取り組んだ、代表例となりました。